EAT ME
"Curiouser and curiouser" cried Alice(she was so much surprised, that for the moment she quite forgot how to speak good English).
--Alice's Adventures in Wonderland
Hugo Wolfの歌曲には、演奏時間がとても短いものが多く(もちろん長いのもあります)、その短い中に絢爛としたピアノの伴奏を含め、ギュっと濃縮された中身が詰まっています。
先日、とても久しぶりにドイツリートの会の「ぷち発表会」に顔を出してきました。
ドイツリートの会は平素、ドイツ歌曲を毎週グループレッスンする会ですが、ほぼ半年に一度くらいに、それぞれの持ちネタ…ではなく、それぞれの持ち歌を仲間たちの前で披露する「ぷち発表会」が開催されます。
お客様を招待しての発表会ではなく、同じレッスンの仲間たちの前で発表するので、また違った緊張感もあり、でも、自分の発表する歌に関する思いなどを打ち明けたりしながら、いつも和気藹々とした雰囲気に溢れています。
わたしは、Hugo Wolfの曲が大好きなので、まあなんというか無謀にも、ほぼ毎回Wolfの曲を選んで歌うのですが、Wolfの短い曲って、何かを思い起こさせるなあ、なんだろうなあ、と、考えていました。
今回歌ったのは、こんな曲です。
庭師
お気に入りの、雪のような白い馬に乗った
この世で一番美しいお姫様が
並木道をお通りになる
馬が優雅な足取りで
進むその道は
僕の撒いた砂がキラキラと輝く
お姫様の頭で揺れている帽子の
その羽を一本だけ落としてくれるのなら
僕の丹精した薔薇の花を
千本でも、ありったけでも
お前にあげよう
…えー、だいたいこんな訳だったかなあとウロ覚えで書いていますが、このような童話みたいな情景の歌。
ピアノの伴奏も、馬のギャロップのように弾む軽快なリズムです。お姫様の馬です。
そして馬のギャロップが弾むのと同じくらいに、「僕」たる庭師の胸も弾んでいる、そんな感じ。
この曲を聴きながら、そしてレッスンも受けながら、こんなに短い曲なのにとても色鮮やかに絵本みたいに豊かに情景がサーッと広がるこの感じ、何かに似ている。何だろう。
そうだアレだアレだアレですがな!
すごく甘くて濃いアイスクリーム。ハーゲンダッツとかの。
それとも、ほろ苦くて口の中にいつまでもその香りが漂うようなウィーン風のチョコレートのケーキ。なんちゅう名前やっけ?
そんな甘くて美味しいお菓子を、Wolfの曲(特に短い曲)はいつも思い起こさせるのです。
でも、ただ甘いだけではなく、もっともっと複雑な味の何か。
ハーゲンダッツのアイスクリームどころではない、なんだろうなあ、もっとヘンテコリンな何かなんですよなあ。
そう考えて考えて、フト思いついたのが、お菓子はお菓子でも、まだ全然食べたことのない、でも昔からよく知っているアノお菓子でした。
それは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場する、「EAT ME」と書かれたあのケーキなのでした。
アリスは「EAT ME」を食べる前に、「DRINK ME」と書かれた飲み物を飲んで、背丈がぐいーんと縮むけれども、次に「EAT ME」を食べて今度は背丈がぐぐぐぐと伸びる。
ただ「DRINK ME」の飲み物はその味の描写が詳しく書いてある(矢川澄子訳によれば「チェリー・タルトとカスタードとパイナップルとロースト・ターキーとタフィーと焼きたてのバタートーストをいっしょくたにしたような」)のに対して、「EAT ME」ケーキの方は風味の描写がありません。
しかし、ジョン・フィッシャー『アリスの国の不思議なお料理』という本には、ジョン・フィッシャー氏考案の「EAT ME」ケーキのレシピがありまして、それによれば「どんなお菓子の中でも一番中身が濃い」というお墨付き(?)まであるので、「あー、ヴォルフの歌は、アリスのケーキだ!」と思い至った次第です(この『アリスの国の不思議なお料理』という本、おなじみのテニエルのイラストとともに料理のレシピが紹介され、ところどころに鋭い示唆に富んだ内容なので、おすすめです)。
Wolfは「メーリケ歌曲集」が有名で「庭師」もその中の一曲ですが、「イタリア歌曲集」「スペイン世俗歌曲集」という二つの歌曲集では、まあなんというか、下世話な男女の惚れたハレタが楽しく展開されていたりするので、わたしとしては「ドイツ歌曲!」てなかんじで変にかしこまるよりは、美味しい(多少変な風味の)お菓子を味わうような気分でゆったり楽しみたいです。
そして中身の濃いケーキに、思わず背が伸びて、世界を見る視点がちょっと変わってしまうくらいの驚きをもちながら、です。




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Comments
calcalさん こんにちは。
とても興味ぶかく楽しく読ませていただきました。
ほんとにWolfに はまっちゃってますね(笑)
Wolfの歌は アリスのケーキだ!
というcalcalさんの独自の感性、
ぷち発表会で話されていた、
「Wolfって イヤなところもあるヤツみたいなんですけど、
そんな人が どうしてこんな歌を作れるのかしら…」
という思い。。。
(まるで、こんなヤツのどこがいいのかしらと言いながら
どうしようもなく魅かれてゆく恋愛みたい??)
とっても マニアックですねえ。
すてきですわ、そういうの♪
Posted by: さくら | April 01, 2011 at 05:46 PM